来月から始まる、ゴッホ&ゴーギャン展が楽しみ過ぎる。
Naoki.の部屋
22『お月様の月への手紙』 拝啓 いつものように駅まで君を送って行った後、どこをどうやって帰ったのかあまり覚えていないけど、気がつけば僕は自宅のベッドの上にいました。左手脇には猫がいて、その黒い身体をくるんと丸めてピッタリと寄り添い、白い方の猫は、少し離れたテーブルの上からじいっとこちらを眺めていました。彼女(猫)は僕が起きるのを今か今かと待ち構えていたようで、僕が上半身をむくと起きあげると、ものすごい勢いで駆け寄ってきました。僕のことを好きで、僕に遊んで欲しくてこちらに走ってくるのならかわいいのですが、その顔は、ただご飯の時間がこれから始まるのではないか、彼(僕)が起きたことによって、カリカリという総合栄養食をもらえるのではないか(うまくいけばおやつなんかも)、という期待の顔と鳴き声のみで、その他にあげるとすると、「早くご飯をよこしなさいよ。使えないわね」という少し侮蔑を含んだ目だけのようでした。 昨夜君との間で起こった、言い争いにもならないようなくだらない出来事を思い出し、猫のように単純に物事を考えることができれば良いのだけどなあ、とつくづく思いました。でももしかしたら、単純な内容であるだけに物事を複雑に捉えてしまい、それをお互いが複雑に解釈し合ったりすることで、あんな風に思ってもいないことで傷つけ合うのかもしれません。ちょうどカバンに入れておいたイヤホンのコードが、取り出すときに複雑に絡まってしまってほどけなくなるように。根気よく丁寧にひとつひとつ線を辿っていけば、いつかそれは解消されるんだろうけど、目の前の問題に気持ちがはやり過ぎてしまい、永遠と同じ結び目のところで立ち往生してしまっているのです。しかも、無理にほどこうとすればするほど、その絡みは複雑化し、さらには途中からすぱっと切れることになりかねないのです。 楽しいことばかりではないよね。もう少し相手を尊重することが大事なのかもしれません。君を失っては元も子もないということを再認識しました。同じものは何ひとつないのだから。 僕が思う気遣いが君に対する優しさだと思って接していたけれど、一歩間違えれば、それはただの優しさの押しつけに過ぎないよね。相手の立場に立って考えることの本質について、僕は考えることをやめてしまっていたようです。それが本当の優しさなのにもかかわらず。 今僕は、君の居ない時間の中ぼうっと部屋を眺めながら過ごしています。いつしか猫も、僕の周りからいなくなってしまいました(やっぱりお腹空かしていただけのようです)。 洗濯機の音や、換気扇の音。パソコンを打つ音、冷蔵庫の冷却ファンの音、時計のチクタク音、何処かの部屋のピアノの音、廊下を誰かが通り過ぎる音、外から聞こえる工事現場の音。いろいろな音がこの部屋にいると聞こえてくるけど、それはどこまでいっても “ひとりでいる音” です。ひとりでいることがこんなにも静かで寂しい世界だったなんて、僕はすっかり忘れていました。 セザンヌの言葉を引用すると、「何か果てしないものが僕らを引きつけ、喜びをもって君と居られる機会をくれたこと」、それだけでも忘れないようにしなければと思います。 ごめんなさい。すっかり真面目な話になってしまいましたね。 次は楽しい出来事を綴れるように。 それではまた、手紙を書きます。 敬具
来月から始まる、ゴッホ&ゴーギャン展が楽しみ過ぎる。
22『お月様の月への手紙』 拝啓 いつものように駅まで君を送って行った後、どこをどうやって帰ったのかあまり覚えていないけど、気がつけば僕は自宅のベッドの上にいました。左手脇には猫がいて、その黒い身体をくるんと丸めてピッタリと寄り添い、白い方の猫は、少し離れたテーブルの上からじいっとこちらを眺めていました。彼女(猫)は僕が起きるのを今か今かと待ち構えていたようで、僕が上半身をむくと起きあげると、ものすごい勢いで駆け寄ってきました。僕のことを好きで、僕に遊んで欲しくてこちらに走ってくるのならかわいいのですが、その顔は、ただご飯の時間がこれから始まるのではないか、彼(僕)が起きたことによって、カリカリという総合栄養食をもらえるのではないか(うまくいけばおやつなんかも)、という期待の顔と鳴き声のみで、その他にあげるとすると、「早くご飯をよこしなさいよ。使えないわね」という少し侮蔑を含んだ目だけのようでした。 昨夜君との間で起こった、言い争いにもならないようなくだらない出来事を思い出し、猫のように単純に物事を考えることができれば良いのだけどなあ、とつくづく思いました。でももしかしたら、単純な内容であるだけに物事を複雑に捉えてしまい、それをお互いが複雑に解釈し合ったりすることで、あんな風に思ってもいないことで傷つけ合うのかもしれません。ちょうどカバンに入れておいたイヤホンのコードが、取り出すときに複雑に絡まってしまってほどけなくなるように。根気よく丁寧にひとつひとつ線を辿っていけば、いつかそれは解消されるんだろうけど、目の前の問題に気持ちがはやり過ぎてしまい、永遠と同じ結び目のところで立ち往生してしまっているのです。しかも、無理にほどこうとすればするほど、その絡みは複雑化し、さらには途中からすぱっと切れることになりかねないのです。 楽しいことばかりではないよね。もう少し相手を尊重することが大事なのかもしれません。君を失っては元も子もないということを再認識しました。同じものは何ひとつないのだから。 僕が思う気遣いが君に対する優しさだと思って接していたけれど、一歩間違えれば、それはただの優しさの押しつけに過ぎないよね。相手の立場に立って考えることの本質について、僕は考えることをやめてしまっていたようです。それが本当の優しさなのにもかかわらず。 今僕は、君の居ない時間の中ぼうっと部屋を眺めながら過ごしています。いつしか猫も、僕の周りからいなくなってしまいました(やっぱりお腹空かしていただけのようです)。 洗濯機の音や、換気扇の音。パソコンを打つ音、冷蔵庫の冷却ファンの音、時計のチクタク音、何処かの部屋のピアノの音、廊下を誰かが通り過ぎる音、外から聞こえる工事現場の音。いろいろな音がこの部屋にいると聞こえてくるけど、それはどこまでいっても “ひとりでいる音” です。ひとりでいることがこんなにも静かで寂しい世界だったなんて、僕はすっかり忘れていました。 セザンヌの言葉を引用すると、「何か果てしないものが僕らを引きつけ、喜びをもって君と居られる機会をくれたこと」、それだけでも忘れないようにしなければと思います。 ごめんなさい。すっかり真面目な話になってしまいましたね。 次は楽しい出来事を綴れるように。 それではまた、手紙を書きます。 敬具