英国アンティーク
「ひどく痛むのかい?」と彼は言った。睡魔だ。面倒なときに面倒な奴がやってきた。 「まあね、それなりに」と僕は答えた。 「顔色も良くないねえ。泥の中で暮らしてたカエルみたいな顔してるよ。目も必要以上に大きいみたいだし」 目が大きいのは生まれつきだからただの悪口だよそりゃ、と思ったが、船は揺れるわ胃が不快だわ何だで面倒だから、そうかもしれない、とだけ答えておいた。 「歯切れが悪いねえ」と彼はポケットから何かを取り出し僕の前にコトンと置いた。それはコーン•ポタージュ•スープのようだった。 「コーン•ポタージュ•スープに見えるね」と僕は言った。 「そう、コーン•ポタージュ•スープだよ」と彼は言った。 「これは何だい?」 「何って?」と彼は言い、左で組んでいた脚を右に組み直した。「コーン•ポタージュ•スープの種類には疎いから、何って言われても困るんだけどね」 「いや、だから何でコーン•ポタージュ•スープを今出したのかを聞いてるんだよ」苛々するな、まったく。 彼はいまいちよく分からないという顔で僕の顔を覗き込みながら、「飲む以外の活用方法を教えてくれるとありがたいね」と言った。 何なんだ、一体。気持ちが悪いって言ってるのに飲ませるつもりかよ。しかし今これを飲んだら確実に戻してしまうな、と僕は思った。いや、待てよ。彼は自分で飲むのかもしれない。そして飲みながらあの濃厚な匂いを辺りに漂わせ、僕の気持ちの悪さを倍増させようという魂胆なのかもしれない。どちらにしろおぞましい結果には違いなかった。 「気持ちは嬉しいけど」と僕は言った。彼は必要以上にニコニコしている。「それを飲……」 『ご乗船のお客様へお知らせ致します。当フェリーは……港へ……間もなく……』 僕の言葉を遮るように、船内アナウンスがタイミング良く流れてきた。もちろん僕はほっと胸を撫で下ろした。そして彼はいつの間にか僕の前から消えており、コーン•ポタージュ•スープだけがテーブルの上に残されてあった。 「持って帰れよ……」と僕はぼそっと言い、コーン•ポタージュ•スープの缶の中身をトイレに流し、空き缶をごみ箱へと捨てた。投げ捨てた。 何処かから、ちっ、と舌打ちのような音が聞こえた気がした。
英国アンティーク
「ひどく痛むのかい?」と彼は言った。睡魔だ。面倒なときに面倒な奴がやってきた。 「まあね、それなりに」と僕は答えた。 「顔色も良くないねえ。泥の中で暮らしてたカエルみたいな顔してるよ。目も必要以上に大きいみたいだし」 目が大きいのは生まれつきだからただの悪口だよそりゃ、と思ったが、船は揺れるわ胃が不快だわ何だで面倒だから、そうかもしれない、とだけ答えておいた。 「歯切れが悪いねえ」と彼はポケットから何かを取り出し僕の前にコトンと置いた。それはコーン•ポタージュ•スープのようだった。 「コーン•ポタージュ•スープに見えるね」と僕は言った。 「そう、コーン•ポタージュ•スープだよ」と彼は言った。 「これは何だい?」 「何って?」と彼は言い、左で組んでいた脚を右に組み直した。「コーン•ポタージュ•スープの種類には疎いから、何って言われても困るんだけどね」 「いや、だから何でコーン•ポタージュ•スープを今出したのかを聞いてるんだよ」苛々するな、まったく。 彼はいまいちよく分からないという顔で僕の顔を覗き込みながら、「飲む以外の活用方法を教えてくれるとありがたいね」と言った。 何なんだ、一体。気持ちが悪いって言ってるのに飲ませるつもりかよ。しかし今これを飲んだら確実に戻してしまうな、と僕は思った。いや、待てよ。彼は自分で飲むのかもしれない。そして飲みながらあの濃厚な匂いを辺りに漂わせ、僕の気持ちの悪さを倍増させようという魂胆なのかもしれない。どちらにしろおぞましい結果には違いなかった。 「気持ちは嬉しいけど」と僕は言った。彼は必要以上にニコニコしている。「それを飲……」 『ご乗船のお客様へお知らせ致します。当フェリーは……港へ……間もなく……』 僕の言葉を遮るように、船内アナウンスがタイミング良く流れてきた。もちろん僕はほっと胸を撫で下ろした。そして彼はいつの間にか僕の前から消えており、コーン•ポタージュ•スープだけがテーブルの上に残されてあった。 「持って帰れよ……」と僕はぼそっと言い、コーン•ポタージュ•スープの缶の中身をトイレに流し、空き缶をごみ箱へと捨てた。投げ捨てた。 何処かから、ちっ、と舌打ちのような音が聞こえた気がした。