Naoki.の部屋
ああ、にゃーにゃーうるさい。
「あら、あなた」と彼女(猫)は言った。「冬の雨のような顔をしてるわよ。貧相な顔が更に貧相になってるみたいだけど、帰り道踏切りで遮断機にでも頭をぶつけたのかしら? だから言ったのに。カンカンカンと鳴り始めたら通り抜けちゃダメなのよって。聞こえてる? カンカンカンよ。駆け込み乗車はおやめくださいってね。ふふふ」 ダイニング•テーブルでは、微かに紅茶から湯気が立ち昇っている。彼女は何かを確かめるようにちらっとそちらに顔を向け、首を左へ僅かに傾け、そしてまたこちらへ向き直した。冷めるのを待っているのだろうか。ははあ、と僕は思った。猫舌なのかもしれない。猫だから。 「それとも、排水口に50円玉を落としてしまい悲観しているのかしら? 50円玉程度に悲観していたらあなた、500円玉だったときにはどうなるの? 清水の舞台から身を投げてしまうんじゃないの? それはやめた方がいいわ。観光名所なのよ。外国人観光客や修学旅行生がその影響で減ってしまったら、日本の経済はどうなってしまうかなんてあなた程度には分からないんでしょうけど、医療費だか消費税だかが増えたら困ることくらいは分かるでしょ? いくらあなたでも」とそこまで言って、ふう、とひと息つきながら彼女は紅茶をひとくちすすって顔をしかめた。まだ冷めていないみたいだ。 「分かったわ、分かってしまったわ」といつもの得意な顔を彼女は浮かべた。「あれね、今読んでる推理小説の続きを読もうとしたら、間違えて最後の方のページを捲ってしまって犯人が分かってしまったんでしょ。それなら大丈夫、安心して。犯人は喫茶店のマスターと思わせといて、実は主人公の妹だから。え? それでもないの? 何なのよ一体。まさか、まさかとは思うけど自分の顔のバランスの悪さに……」 「ミ、ミシェル!」と彼(猫)は言った。「もうそのへんにしときましょう!」 バランスの悪さ……?
ああ、にゃーにゃーうるさい。
「あら、あなた」と彼女(猫)は言った。「冬の雨のような顔をしてるわよ。貧相な顔が更に貧相になってるみたいだけど、帰り道踏切りで遮断機にでも頭をぶつけたのかしら? だから言ったのに。カンカンカンと鳴り始めたら通り抜けちゃダメなのよって。聞こえてる? カンカンカンよ。駆け込み乗車はおやめくださいってね。ふふふ」 ダイニング•テーブルでは、微かに紅茶から湯気が立ち昇っている。彼女は何かを確かめるようにちらっとそちらに顔を向け、首を左へ僅かに傾け、そしてまたこちらへ向き直した。冷めるのを待っているのだろうか。ははあ、と僕は思った。猫舌なのかもしれない。猫だから。 「それとも、排水口に50円玉を落としてしまい悲観しているのかしら? 50円玉程度に悲観していたらあなた、500円玉だったときにはどうなるの? 清水の舞台から身を投げてしまうんじゃないの? それはやめた方がいいわ。観光名所なのよ。外国人観光客や修学旅行生がその影響で減ってしまったら、日本の経済はどうなってしまうかなんてあなた程度には分からないんでしょうけど、医療費だか消費税だかが増えたら困ることくらいは分かるでしょ? いくらあなたでも」とそこまで言って、ふう、とひと息つきながら彼女は紅茶をひとくちすすって顔をしかめた。まだ冷めていないみたいだ。 「分かったわ、分かってしまったわ」といつもの得意な顔を彼女は浮かべた。「あれね、今読んでる推理小説の続きを読もうとしたら、間違えて最後の方のページを捲ってしまって犯人が分かってしまったんでしょ。それなら大丈夫、安心して。犯人は喫茶店のマスターと思わせといて、実は主人公の妹だから。え? それでもないの? 何なのよ一体。まさか、まさかとは思うけど自分の顔のバランスの悪さに……」 「ミ、ミシェル!」と彼(猫)は言った。「もうそのへんにしときましょう!」 バランスの悪さ……?