神保町で100円くらいで買った洋書を積み重ねてるだけ。朔太郎もお気に入り。
中には日本の本も紛れ込んでます。
19『お月様の月への手紙』 拝啓 ドン、ドン、ドン。 宮下公園から東の坂を登り、モデルルームを左に抜けたところで姿の見えない音がしました。都会のど真ん中で聞くその音はとても現実離れした大きな音で、思わず二人、目を見合わせ輝かせたのを覚えてますか? 思えばこの夏、二人で花火を見たのは初めてのことでした。いや、二人出会ってからも初めてのことだったよね。あれやこれやで延び延びになってしまっていた花火大会。ようやく一緒に出かけることができて、僕はそのときの事を思い出し、今ひとり余韻に浸っています。もしかしたら、気がつかないうちににやにやしているのかもしれません。先ほどから猫たちが不審そうにこちらを伺っています。。 今、僕は窓際にかかった君の着ていた浴衣を眺めています。そして目を閉じるとくっきりとそれを着た君が浮かび上がります。夏の花や草が散りばめられた、目の覚めるような濃い青の浴衣。鮮やかな銀色の帯。ほどよく焼けた木製の下駄。カランコロンと、通りに足音を響かせていたあのときの君は、その笑顔を含めて、まるで御伽噺からそのまま出てきたような美しさに満ちていました。どう言ったら良いのだろう。どんな言葉も安っぽく聞こえてしまうかもしれないけど、やっぱり君を好きになって良かったなあ、と素直に思いました。気づいていましたか? 街を歩く人々皆、君を見ていたことを。 都会は高い建物に覆われ、音ばかりが響き渡り、なかなかゆっくりと見ることはできなかったけど、あの商店街の隙間でのぞいた花火はとても素敵だったよね。そして、「もっと近寄ってみる?」と所々で足休めしながら、最後に到達した外苑通りで見た花火も、とても非現実的な景色で楽しめました。何所かに腰を下ろし、二人ぼんやりと打ち上げられる花火を見るのもいいかもしれないけど、二人並んで通りを散策しながら聞く花火の音、こんな楽しみ方もあるんだなあ、と気づきました。人混みはあまり好きではなかったけど、結局は君が隣りにいるだけで、どんなところだって楽しめるんだなあ、ということがわかりました。 夏の風物詩。来年は何回行けるかな? 僕の左手には君の右手、君の右手には僕の左手。二人並んで手をつなぎ、音のする方へ足を運ぶ。空にはビルとオレンジの花火。しっかりと心の中に綴込みました。 思い出を振り返りながら、こうして手紙を書くのは良いものですね。色褪せない情景が、いつまでも目の前に浮かんでくるようです。 慣れない鼻緒で、足が痛くなってませんか? 良ければ次は着物を一緒に着てみましょう。 それでは、また。 敬具
神保町で100円くらいで買った洋書を積み重ねてるだけ。朔太郎もお気に入り。
中には日本の本も紛れ込んでます。
19『お月様の月への手紙』 拝啓 ドン、ドン、ドン。 宮下公園から東の坂を登り、モデルルームを左に抜けたところで姿の見えない音がしました。都会のど真ん中で聞くその音はとても現実離れした大きな音で、思わず二人、目を見合わせ輝かせたのを覚えてますか? 思えばこの夏、二人で花火を見たのは初めてのことでした。いや、二人出会ってからも初めてのことだったよね。あれやこれやで延び延びになってしまっていた花火大会。ようやく一緒に出かけることができて、僕はそのときの事を思い出し、今ひとり余韻に浸っています。もしかしたら、気がつかないうちににやにやしているのかもしれません。先ほどから猫たちが不審そうにこちらを伺っています。。 今、僕は窓際にかかった君の着ていた浴衣を眺めています。そして目を閉じるとくっきりとそれを着た君が浮かび上がります。夏の花や草が散りばめられた、目の覚めるような濃い青の浴衣。鮮やかな銀色の帯。ほどよく焼けた木製の下駄。カランコロンと、通りに足音を響かせていたあのときの君は、その笑顔を含めて、まるで御伽噺からそのまま出てきたような美しさに満ちていました。どう言ったら良いのだろう。どんな言葉も安っぽく聞こえてしまうかもしれないけど、やっぱり君を好きになって良かったなあ、と素直に思いました。気づいていましたか? 街を歩く人々皆、君を見ていたことを。 都会は高い建物に覆われ、音ばかりが響き渡り、なかなかゆっくりと見ることはできなかったけど、あの商店街の隙間でのぞいた花火はとても素敵だったよね。そして、「もっと近寄ってみる?」と所々で足休めしながら、最後に到達した外苑通りで見た花火も、とても非現実的な景色で楽しめました。何所かに腰を下ろし、二人ぼんやりと打ち上げられる花火を見るのもいいかもしれないけど、二人並んで通りを散策しながら聞く花火の音、こんな楽しみ方もあるんだなあ、と気づきました。人混みはあまり好きではなかったけど、結局は君が隣りにいるだけで、どんなところだって楽しめるんだなあ、ということがわかりました。 夏の風物詩。来年は何回行けるかな? 僕の左手には君の右手、君の右手には僕の左手。二人並んで手をつなぎ、音のする方へ足を運ぶ。空にはビルとオレンジの花火。しっかりと心の中に綴込みました。 思い出を振り返りながら、こうして手紙を書くのは良いものですね。色褪せない情景が、いつまでも目の前に浮かんでくるようです。 慣れない鼻緒で、足が痛くなってませんか? 良ければ次は着物を一緒に着てみましょう。 それでは、また。 敬具