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書店で妙にずしりと指先に響いた新刊の感触に、愕然とした。ああ…、此れが「余裕」の持つ、値万金の重さか、と。長らくこういう本は手に取っていなかった。つまり、薫り高い何杯かの珈琲と数時間の解放さえあれば充分戻って来れる、全く新しいパラレルワールドを旅してみようと企図する余地すら、ここ数年の自分の生活には残されておらず、無限の世界へと繋がる自由という名の小さな扉は、そんな自分にとって酷く大きな存在…いや、最早開かずの扉と化してしまってすらいたのだ。今日、中央の一冊を目当てに書店に赴き、早速一つの旅を終えた後、頭を過ぎったのは…以前観た何本かの映画達。「Doctor Zhivago」「La Strada」「Un homme et une femme」「Les Parapluies de Cherbourg」「A river runs through it 」「Ultimo tango a Parigi」「Unfaithful」「Last Night」「Manchester By The Sea」…また、観返してみるとしよう。傍に並べてあった二冊も序でに購入。こんな風に、刹那的に人生を恣意的なものに変える…其れこそが書店ならではの最たる魅力だろう。ネット通販じゃ、こうはいかない。さて、今宵は何方の世界の扉を開こうか。花冷えの季節、窓の外はまだ冷んやりと肌寒い。けれども部屋の中は暖かく、週末の夜の帳の懐は何処迄も慈悲深く、厚くゆったりと煌めく。上質なベルベットの如くに。
