「あら、お久しぶりね」僕は声のする方を振り向いた。聞き覚えのある声、イソノさん(猫)だ。「お元気?彼も元気にしているかしら」イソノさんはただ久しぶりに会っただけという様子で、それが僕を拍子抜けさせた。彼とはもちろん山中さん(猫)のことだが、その口ぶりからすると、彼女もその行方を知らないみたいだった。僕は平静を装い、公園のベンチに腰掛け、辺りを見渡しながらどう言うべきか言葉を探した。すべり台、ぶらんこ、砂場。最近の公園は遊具という遊具がほとんど置かれていない。ジャングルジムは何処へいってしまったのだろう。鉄棒すら無い。僕は、雲梯を初めて往復したときのことを思い出していた。「彼とは最近会ってませんが、元気にしていると思いますよ。カティ・サークでも飲んでるんじゃないかなあ」「確かにそうね」そう言ってイソノさんはクスクスと顔がほころんだ。まるで夏の終わりかけの陽射しのような微笑みで、笑い方も上品だな、と思った。僕はなるべく山中さんのことを悟られないよう、今度はイソノさんのことについて訊ねてみた。「あれからどうしてたんですか?僕も山中さんも心配してましたよ。でも元気そうで良かったです」彼女は少し間を空けて、「ごめんなさいね」と言い、元々この公園の近所で飼われていること、しかし放浪するのが好きで、たまに期間限定で他の場所で過ごしたりすること、あのときは居心地がよく数ヶ月間一緒にいたが、今の飼い主が探しにきて、別れも言えずに去ってしまったことなどを、ゆっくり話し始めた。「そのまま居たかったのだけど…」とイソノさんは少し寂しそうな顔をした。「よろしく言っておいてね」と言い、僕はわかりました、と頷いた。そしてどちらともなく、それぞれに公園を後にした。