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sixflags
深夜の書斎。主人がベッドで眠りにつくと、部屋は静寂に包まれる。だがその沈黙は、死んだような無音ではない。それは、星々が瞬き始める直前の、透明で張りつめた静けさ。私は、この家でいちばん愛されている存在。そう、主人の愛猫として、この部屋の静かな守護者であり、観測者である。ふかふかの絨毯の上から、私はただひたすらに、夜の物語を見届ける。デスクに並ぶ黒い箱たち、主人が「IT機材」と呼ぶ彼ら。漆黒の殻をまとった巨人たちは、今は深い夢の中にいる。けれども、その胸奥には、七色の光が鼓動のように打ち続けている。赤色は情熱の焔。青色は静謐なる思索。緑色は芽吹きの息吹。そして七色の光は、まるで銀河を巡る星雲の軌跡のように、この狭い書斎を宇宙へと変えてゆく。耳を澄ませば、かすかなファンの囁き。それは眠りについた巨人の寝息であり、未来を耕す風の音。鼻を近づければ、懐かしい機材の匂い。乾いた空気の奥で、金属と熱が交わる香り。この部屋は決して静止していない。闇の中で灯る小さなランプたちは、互いに呼び交わすように、光を投げ合い、見えぬ対話を織り上げている。それは、夜空に散らばる星々が、目には見えぬ糸で結ばれた星座であるかのようだ。私は、その天球儀を独り占めにする観測者。静寂の波に浮かび、七色の潮流をただ見守る。主人が眠る間、この書斎はひとつの生命体となる。黒い箱たちは臓腑となり、光は鼓動となり、ファンの囁きは呼吸となる。この部屋そのものが、未来を育む巨大な有機体なのだ。やがて朝の光がカーテンを透かし、主が目覚めると、この星々はただの点滅に戻り、巨人たちは再び「道具」という名に身をやつすだろう。私は知っている。この深夜の光は、彼らが明日目覚めるための静かな息づきであることを。そして朝になれば、彼らはたちは再び、凛として目覚め、主人とともに、情報という世界に英知を解き放つのだ。

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