寒い日にテレビで夏の映像を見てもちっとも暑そうに見えない。その逆も同じで、夏の日に冬の寒い映像を見ても何とも伝わってこない。なぜだろう。文章を添えてみるとどうだろう。『窓という窓を開け放してもまったく風が入ってこない。あいにくエアコンが壊れている為、僕は諦めて扇風機を回してみた。しかし生ぬるい風をかき回すだけで、その風を浴びれば浴びるほど、ひたいからの汗が頬を伝い、Tシャツにべたつく嫌な染みが広がっていく。窓の外からは容赦なく西陽が差し込み、耳をつんざくほどの蝉の声が絶え間なく聞こえてくる。“わたあめ”だって溶けてしまうようなけだるい午後だった』…うん、まあ、映像があろうと文章があろうと実際にその場に居ないと暑さも寒さも分からないということはわかった。「それは文章力の問題だと思うわ。あなた程度の文章力で臨場感を出そうなんて百年早いわよ。出直してくることね」うむ、反論できない。実際に真夏を味わったことのない彼女に伝わってこそだなと思った。その場にいなくてもその場にいるような錯覚を見せることができるようになれば、もう少し僕にも自信がつくのかもしれない。冬の描写は簡単だなぁと思っていたが、それは今冬を過ごしているから、ということか…。これはちょっと趣旨が違うが、寒さに震え「ああ、早く夏にならないかなぁ」なんて思っていても、夏になると「ああ寒くてもいいから冬が来ないかなぁ」なんて思ってしまう。「はいはい十分わかったわ、それはいいから早く食事の用意してもらえる?」と彼女は言い。「わかりました」と僕は言った。