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Naoki.
「わぁおかえりなさいです!お土産はミシェルに我慢しろと言われたので大丈夫です!何日ぶりでしょうか!寂しかったです!ところでお土産はまずシャワーを浴びた後に貰えるんですか?!」ドアを開けるなり、彼は僕に向かってひと息で言った。僕は、え?と言い、突然過ぎて彼の言葉の句読点整理をするのに時間がかかったのだが、もちろん整理後もよく分からないふりをした。彼女は特にこちらを見るわけでもなく、窓の外に顔を向けたまま「思ったより早かったわね」と言った。4日前と同じ位置、同じ表情をしているようだった。僕は二人に「ただいま」とだけ言うと、それ以上何もする気が起きずダイニングチェアーに腰を下ろしソワソワしている彼を無視してぼんやりと天井を見つめた。祖母の訃報の知らせを受け、息をつく暇もなく故郷に渡り、そして葬儀を終え、またここに戻ってきた。しかし不思議と一切涙は出なかった。もしかしたらこのまま涙は出ないのかもしれない。とても冷たい人間だな、と思い僕は深い溜息をついた。するとソファの方からも溜息をつくのが聞こえた。目線だけそちらにやると、彼女が音も無くスルリとソファから降り、トトトと床を歩き、僕の膝にサッと登り、特にこちらを見ることなく「おかえり」と言った。その声には確かに優しさが込められていた。しかし、もしかしたら僕にではなく、僕の旅行カバンに言っているのかもしれなかった。それともこのマフラーにだろうか。…そういう下らないことを考えながら、気がつくと僕は涙を流していた。

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