つくること、つかうこと、つづけること。美術家、藤浩志さんの作品づくりと暮らしかた

つくること、つかうこと、つづけること。美術家、藤浩志さんの作品づくりと暮らしかた

ペットボトルから廃屋まで、さまざまな「使われなくなったもの」を使って作品制作やプロジェクトを行なっている美術家の藤浩志さん。SDGsにもつながるアートプロジェクトのきっかけ、驚きのおうちづくりや暮らしかたなど、いろんなお話を伺いました!DIYやセルフビルドに興味がある方も必見です♪

連載「つづく、めぐる暮らし」がスタートします!

https://cdn.roomclip.jp/v1/w/1360/roomclip-mag-gd/companies/1001_image/x_150/sdgsbnr.jpg

RoomClip magは、SDGsについて考える連載「つづく、めぐる暮らし」を始めます。記念すべき最初の記事は、美術家・藤浩志さんと、パートナーの藤容子さんへのインタビュー。モノをつくることやつかうことの責任を考えたい今、目からウロコなお話をたっぷり伺いました!記事の最後には、ユーザーさんの投稿もご紹介しています。ぜひチェックしてみてくださいね。

藤浩志さんプロフィール

藤浩志さん

美術家、秋田公立美術大学教授、NPO法人アーツセンターあきた理事長、秋田市文化創造館館長。ペットボトルや廃材などを用いて、国内外でさまざまなアートプロジェクトを手がけている。
藤スタジオ公式サイト

子どもたちの「かえっこ」から生まれるもの

全国各地のさまざまな地域活動で行われている「かえっこ」というイベントをご存知ですか?地域の子どもたちが自分のおもちゃを持って集まり、イベントのお手伝いをしてポイントを貯めたり、貯めたポイントを別のおもちゃと交換したり。子どもたちが主役になって、さまざまな活動をするイベントです。

このイベントの仕組みをつくったのが、美術家の藤浩志さん。「かえっこ」を始めたきっかけは約25年前、福岡アジア美術館で開催されたアートのフリーマーケットでした。フリマに出店したのは藤さんではなく、藤家の娘さん2人。小学生の「店長」と未就学児の「副店長」が持ってきたおもちゃを店頭に並べると、子どもたちが次々に集まってきたのだそう。

▲「かえっこ」の会場風景。テーブルを支える「やせ犬」たちも藤さんの作品です。

「子どもたちはあらゆるものに価値を見出すので、面白いんですよね。古いおもちゃの剣で延々と遊ぶ子もいれば、ハガキで作った鍋敷きをずっと眺めている子もいる。誰かが『もう使わない』と思ったものでも、別の子どもの心をつかむことがある。そして、いつのまにかそこに『子どもたちの居場所』ができあがっていたんです」(藤さん)

お金を使わず、自分の持っているおもちゃと交換したり、その子が描いた絵と交換したりするシステムも、そこから始まりました。そして現在、「かえっこ」は20年超の歴史を持つ一大イベントに。集まったおもちゃは藤スタジオで分類・整理され、次回の「かえっこ」用のストックになり、また、藤さんの作品の素材としても活用されています。

▲シドニーフェスティバル2018への参加作品「Jurassic Plastic」の展示風景。

「かえっこ」の他にも、藤さんの手がけるさまざまなプロジェクトが各地で進行中です。せんだいメディアテークで行われている「ワケあり雑がみ部」は、仙台市のごみ分別区分のひとつ「雑がみ」をテーマにした市民参加型プロジェクト。集まった雑がみは、雑がみ部員の皆さんが工作ワークショップなどで活用しています。

「作品をつくるために何か(材料)を買う、ということをやめたかった」という藤さん。「つくる責任 つかう責任」は、SDGsの目標のひとつとして挙げられています。アーティストとしての“責任”を感じていた藤さんは、生活者としてもユニークな「プロジェクト」に取り組んでいました。

暮らしのなかで生まれた、家族の「ゴミゼロエミッション」

藤さんのご自宅には、ちょっと驚くようなアイテムがあります。たとえば、食卓で使う「醤油差し」。藤さんのパートナー、容子さんが出産時に病院でもらったものの使う機会のなかった哺乳瓶が「醤油差しにちょうどよかった」ことをきっかけに、今でも哺乳瓶を使っているそう。「ちょっとずつ使いたいときに使いやすいし、量の調整もしやすいんですよ」と容子さん。

▲藤家で使われている醤油差し(哺乳瓶)。

オリーブオイル用のボトルには食器洗剤のボトルを再利用していて、「食器洗剤を買うときに、もはや(調味料の)容器として選んでいる」と藤さん。お二人が「すでに持っているものを使う」ことを意識するようになったのは、ごくプライベートなきっかけでした。

「以前、引っ越した先で町内会に入ることになって、でもその入会金が結構高くて、春まで払えなかったんですよ(笑)。町内会に入っていないから、町内のゴミ捨て場が使えない。実際は出そうと思えば出せたはずなんですけど、そのときに『じゃあ、ゴミは捨てずに貯めておこう』と思い立って。それが始まりですね」(容子さん)

当時、国内外でのプロジェクトに参加するため、家を空けることが多かったという藤さん。久しぶりにわが家に帰ってきたとき、ビニールやプラスチックは洗って干す、生ごみは庭先の畑に埋めて土づくりに活かすなど、容子さんがゴミを捨てずに生活している様子を見て「これを家族のプロジェクトにしよう!」と決め、1997年から2003年までの7年間「ゴミゼロエミッション」を続けたのだそう。

プロジェクトはいったん終了したものの、ビニールやプラスチックは今も「捨てずにどこまで使えるか」を追究しているそう。藤さんは「次の作品で何かに使えるかも?」と考える一方、容子さんは「特に『これで何かを作ろう』という目的意識があるわけではないけど、『いつか何かになるかもしれないな』ぐらいの気持ちで、なんとなく捨てずに取っている」と言います。

「たとえば、紙パックのスムージーの蓋。キャップを回すとプラスチックのギザギザで内蓋が破れるようになっていて。こういう技術を作った人のことを考えると『すごい!』って、いつも感動してしまうんですよね。そうなると、つい集めちゃう」(藤さん)

▲「好きなものシリーズ」として見せてもらったプラスチック類。その企業努力や技術に感動して「愛情が湧いてしまう(笑)」と容子さん。

「プラスチック製品をつくるのが良くないとか、プラスチックごみを捨てるのが良くない、ということが言いたいわけじゃないんです。こうなるまでの時代背景や、いろんな事情があるわけですし。でも、実際に出ている大量のゴミは、捨てられているから目に見えない。作品づくりにおいて、表現として“過剰”に見せるのは、その『見えないもの』を可視化して、見る人を立ち止まらせたい、その人の心をざわつかせたい、という気持ちがあります」(藤さん)

「そういえば、これもすごいんだよ」と藤さんが見せてくださったのは、素敵なラピスブルーのバッグ。なんと、容子さんがレジ袋を編んで作ったものでした。
「娘がよく買い物に行くお店のレジ袋です。これもずっと何十枚と貯めていたんですが、それを細かく切って、編んでみたんです。素材がしっかりしてるから、割と強度もありますよ」(容子さん)

▲右手前の青いレジ袋を材料としてつくったバッグ。

お買い物が終わった後はゴミ袋になることがほとんどのレジ袋も、こんなに美しく生まれ変われるなんて!身のまわりのいろんなものが「素敵な何かの材料」になる可能性を秘めているのでは?とワクワクしてきますね。

「ぬいぐるみ断熱の家」をつくりつづける

▲2012年、引き渡しのときのおうちの中の様子。

藤さんのご自宅は、目の前に海が広がる絶景のロケーションにあります。水道と便器しかない状態で引き渡された倉庫風の家は、1階が倉庫、2階が住居スペース。2012年の引き渡しの直後、藤さんは十和田市現代美術館副館長に就任したため(2014年に館長就任、2016年退任)、主に容子さんが壁から階段、2階の寝室まで(!)、ほとんどセルフビルドで作り上げてきました。

簡易水洗のトイレは、大きな瓶(かめ)から水を汲んで流すスタイル。汚水は毎月汲み取りをお願いしており、その他の生活排水は浄化槽を使って浸透させています。SDGsの目標にも「安全な水とトイレを世界中に」とあるように、排水も重要な環境問題のひとつです。

「すぐそこの海に流れて行くわけだから、自分たちが出す排水のことも日々気にせざるを得ないですよね。子どもたちも、カレーを食べるときにできるだけお皿を汚さないで済むように『ごはんから攻める』のを『藤家の食べ方』と呼んでいます(笑)。プラスチックごみだけでなく、生ごみもできるだけ出さないように工夫しています」(藤さん)

▲ぬいぐるみ断熱が施されたトイレの天井。

また、藤さんが「この家の中で唯一完璧に閉じた空間で、いちばん防音できる場所」と言うように、トイレの板張りのスキマからは、この家の大きな特徴といえる「ぬいぐるみ」たちがのぞいています。このぬいぐるみは「かえっこ」で集まったもの。藤さんのおうちで、断熱材として生まれ変わっているんです!

おうちづくりには「規格を揃えておけば足していけるから」と、決まったサイズの杉材3種類を使用。古くなったり、使わなくなったりした木材は、薪ストーブの燃料にしています。「床を貼ろうとか、トイレにタンクをつけようとか、いろいろ考えてはいるんだけど、まだできていないんですよ」と笑う藤さん。「ぬいぐるみ断熱の家」は、引き渡しから10年経った今も進化をつづけています。

まずは、身近なものに目を向けることから

▲棚にずらりと並ぶ、ストック用のガラス瓶。

「何かをつくるときに『身近にあるものでつくれるんじゃないか』と考えてみる。そのためには、使えそうなものを貯めておく必要があるんですよね。『何に使えるのか』とか『本当に使えるのか』とか、そこは分からないんだけど(笑)」(藤さん)

実験するような感覚で「捨てない」ことをスタートし、その可能性を広げてきた藤さんご夫妻。お話を伺っていく中で、その軽やかさや、家族や周りの人たちを巻き込んで“楽しんでいる”様子が印象的でした。
少しとっつきにくさのある「SDGs」も、おうちの中にあるもの、地域の中にあるものの使い方を見直すことで、より“自分ごと”として捉えやすくなるのではないでしょうか。

RoomClipユーザーさんの素敵なアイデアもたくさん!

「まだ捨てるのはもったいないかも」というモノがあったら、まずは自由なアイデアで何かを作ってみませんか?たとえば、暑い季節になるとおうちに集まりがちな「ペットボトル」。ユーザーさんのアイデアをご紹介します♪

左上:212610さんが親子で作ったビー玉転がしゲームボード。ペットボトルのふたが活躍中です!
右上:ペットボトルのふたを使って麦わら帽子のマグネットを作っているyukiさん
左下:お花が安定しにくい広口のフラワーベース。Renさんはペットボトルを使ってお花を固定しています♪
左右:kouheiyuto24623takaさんは、カットしたペットボトルでドライフラワーのガラスドーム風に!

RoomClipでは、2023年7月2日(日)まで投稿イベントを開催しています!テーマは「使い終わったものを活用したリメイク・DIY」。おうちの中の素敵なアイデア、ぜひ投稿してみてくださいね♪

最近見た商品

リラックス空間を作る癒しの照明アイデア集

関連記事

RoomClipショッピングの関連リンク