東雲の回想。
あの日僕の受け持ちのテーブルに、初めての紳士が来られたのです。
少しお疲れのご様子で椅子にかけると
『ドゥーブル・エクスプレスを頼む』
と仰って目を閉じて眉間の間を指で揉むようにされていました。
僕がご注文のエスプレッソを置くと、『ありがとう』と仰って川の方角に目を向けておられました。
ちょうどその時です。
店の裏庭に居たはずのあの仔猫が、真っ直ぐに紳士の足元に駆けてきたのです。
僕は急いで近づいて
『申し訳ございません!この子がこんな所まで』
紳士は驚いたようにその仔猫を抱き上げて
『お前は...』
と言ったきり 黙って仔猫の顔を見つめていました。
そして、『この仔は 君の猫かね?』と訊ねられました。
『あ、いえ。先日 店の裏に迷い込んで来て、でも店には内緒で...僕には飼えなくて』
『そうか。良かった。無事で良かった。実はこの仔猫をここ数日探しまわっていたのだ。
ルーブルの帰りにチュイルリー公園に寄った折、妻のマサコが捨てられているのを見つけて連れて帰った仔猫なのだよ。
ところが、そこの花屋の店先から突然逃げてしまって。
しかしよく無事であった。君が匿ってくれたのだね。ありがとう。
私が連れて帰っても構わないだろうか?』
と仰ったので、
『もちろん。そうして頂ければ僕も嬉しいです。お願いします』
『マサコがひどく心配してあちらこちら探し回っていたが、見つからず気落ちしていたが非常に喜ぶだろう。君には改めてお礼を言言いに来るよ。ありがとう』
そうして、その公園が名前の由来となったチュイルリー様はダルトン様とマサコ様の元へ引き取られたのです。
それがきっかけで、ダルトン様ご夫婦はしばしばうちのカフェにお二人でおいでになるようになりました。
to be continued...
東雲の回想。
あの日僕の受け持ちのテーブルに、初めての紳士が来られたのです。
少しお疲れのご様子で椅子にかけると
『ドゥーブル・エクスプレスを頼む』
と仰って目を閉じて眉間の間を指で揉むようにされていました。
僕がご注文のエスプレッソを置くと、『ありがとう』と仰って川の方角に目を向けておられました。
ちょうどその時です。
店の裏庭に居たはずのあの仔猫が、真っ直ぐに紳士の足元に駆けてきたのです。
僕は急いで近づいて
『申し訳ございません!この子がこんな所まで』
紳士は驚いたようにその仔猫を抱き上げて
『お前は...』
と言ったきり 黙って仔猫の顔を見つめていました。
そして、『この仔は 君の猫かね?』と訊ねられました。
『あ、いえ。先日 店の裏に迷い込んで来て、でも店には内緒で...僕には飼えなくて』
『そうか。良かった。無事で良かった。実はこの仔猫をここ数日探しまわっていたのだ。
ルーブルの帰りにチュイルリー公園に寄った折、妻のマサコが捨てられているのを見つけて連れて帰った仔猫なのだよ。
ところが、そこの花屋の店先から突然逃げてしまって。
しかしよく無事であった。君が匿ってくれたのだね。ありがとう。
私が連れて帰っても構わないだろうか?』
と仰ったので、
『もちろん。そうして頂ければ僕も嬉しいです。お願いします』
『マサコがひどく心配してあちらこちら探し回っていたが、見つからず気落ちしていたが非常に喜ぶだろう。君には改めてお礼を言言いに来るよ。ありがとう』
そうして、その公園が名前の由来となったチュイルリー様はダルトン様とマサコ様の元へ引き取られたのです。
それがきっかけで、ダルトン様ご夫婦はしばしばうちのカフェにお二人でおいでになるようになりました。
to be continued...