その顔はいつになく緊張が見え、どことなく顔色が悪く、僅かではあるが余所余所しく感じた。僕はそれには気づかないふりをして「今日はどちらまで?何か楽しいことありましたか?」と声をかける。「ああ、そうだな…。ところであんたはよくこの時間にやってくるが、何か最近変わったことはなかったかい?」と僕の問いには答えず、周囲をきょろきょろしながら山中さんは訊ねてきた。「変わったことですか?そうですね、それがどんな種類かにもよりますが、特段なかったように思います。どうかしたんですか?」「いや無いならいいんだ、気にしないでくれ。すまなかったな」と、山中さんは先ほどより幾分落ち着いた口調でそう言い、いつもの穏やかな表情に戻った。少し気になったが、僕からは特にそれ以上聞かなかった。それから僕らはしばらく他愛もない話をした。最近の猫のおやつ事情、猫用のミルクについて、2丁目に住んでいる茶トラのオス猫の話には笑ったものだ。そしてウィスキーと、ウォッカ・カクテルの種類の話が一段落した頃合いで、少しこれから用がある、と山中さんが言った為、帰宅することにした。その帰り道、僕は彼の不思議な問いかけについてあれこれ想像してみた。何かあったのだろうか。…わからない。やはり本人に聞いてみようと思い、それ以上考えるのをやめてしまった。しかしその日を境に、彼は忽然と僕の前から姿消してしまったのだ。
その顔はいつになく緊張が見え、どことなく顔色が悪く、僅かではあるが余所余所しく感じた。僕はそれには気づかないふりをして「今日はどちらまで?何か楽しいことありましたか?」と声をかける。「ああ、そうだな…。ところであんたはよくこの時間にやってくるが、何か最近変わったことはなかったかい?」と僕の問いには答えず、周囲をきょろきょろしながら山中さんは訊ねてきた。「変わったことですか?そうですね、それがどんな種類かにもよりますが、特段なかったように思います。どうかしたんですか?」「いや無いならいいんだ、気にしないでくれ。すまなかったな」と、山中さんは先ほどより幾分落ち着いた口調でそう言い、いつもの穏やかな表情に戻った。少し気になったが、僕からは特にそれ以上聞かなかった。それから僕らはしばらく他愛もない話をした。最近の猫のおやつ事情、猫用のミルクについて、2丁目に住んでいる茶トラのオス猫の話には笑ったものだ。そしてウィスキーと、ウォッカ・カクテルの種類の話が一段落した頃合いで、少しこれから用がある、と山中さんが言った為、帰宅することにした。その帰り道、僕は彼の不思議な問いかけについてあれこれ想像してみた。何かあったのだろうか。…わからない。やはり本人に聞いてみようと思い、それ以上考えるのをやめてしまった。しかしその日を境に、彼は忽然と僕の前から姿消してしまったのだ。