ただいま、とドアを開けると「ちょっと、今お話して大丈夫かしら?」と彼女が唐突に訊いてきた。どうしたのだろう。いつもながら少しこわい。僕は靴を脱ぎ、ネクタイを緩め、コートをハンガーに掛け、「いいよ、どうしたの?」と答えた。「6秒ね」「やったー!僕の勝ちです!」と口々に彼女たちが言った。何なんだ一体。「突然話しかけてあなたが何秒くらいで返事するのか試したのよ。秒単位でね」「ぼく、どんぴしゃでした!ミシェルは3秒だからぼくの勝ちです!わーい!」と彼は嬉しそうに走り回っていた。「ちっ」と彼女は舌打ちをし、僕の顔を見上げ、「はぁ……あなたはほんとダメね」と、冷凍庫に一晩居てもそんなに冷えないんじゃないか、くらい、とても冷たく言い放った。それは、トイレットペーパーの“しん”を見つめるような目つきだった。もしかしたらトイレットペーパーの“しん”と思われているのかもしれない。「いやいや、え?ちょっとそれはないんじゃないかなあ。その遊びが、というより、その言い方はちょっとさミシェル」と僕は言った。しかし、彼女は深く溜息をついて、「あなたってほんとダメね」と、もう一度言うだけだった。
ただいま、とドアを開けると「ちょっと、今お話して大丈夫かしら?」と彼女が唐突に訊いてきた。どうしたのだろう。いつもながら少しこわい。僕は靴を脱ぎ、ネクタイを緩め、コートをハンガーに掛け、「いいよ、どうしたの?」と答えた。「6秒ね」「やったー!僕の勝ちです!」と口々に彼女たちが言った。何なんだ一体。「突然話しかけてあなたが何秒くらいで返事するのか試したのよ。秒単位でね」「ぼく、どんぴしゃでした!ミシェルは3秒だからぼくの勝ちです!わーい!」と彼は嬉しそうに走り回っていた。「ちっ」と彼女は舌打ちをし、僕の顔を見上げ、「はぁ……あなたはほんとダメね」と、冷凍庫に一晩居てもそんなに冷えないんじゃないか、くらい、とても冷たく言い放った。それは、トイレットペーパーの“しん”を見つめるような目つきだった。もしかしたらトイレットペーパーの“しん”と思われているのかもしれない。「いやいや、え?ちょっとそれはないんじゃないかなあ。その遊びが、というより、その言い方はちょっとさミシェル」と僕は言った。しかし、彼女は深く溜息をついて、「あなたってほんとダメね」と、もう一度言うだけだった。