猫を追いかけるのは容易ではない。そもそも体型が違うし、通る道筋の常識だって違う。ブロック塀をひょいひょいと渡り、他所の庭にササっと入っていく、かと思えば反対側から顔を出し裏通りをまた歩く。ちょっとしたドキュメント映画のようだ。僕は子供の頃に読んだ「不思議の国のアリス」を思い浮かべていた。イソノさん(と思われる猫)は、誰もいない公園のベンチで足を止めた。どうやら毛繕いを始めたようだ。もう随分家からは離れている。この時間の公園に誰もいないのは、とても不思議な感じがした。おそらくいつもは子供や、その保護者で賑わっているのだろう。誰かが忘れていったゴムボールや縄跳びが、昨日の雨で汚れてしまっていた。まだ地面がぬかるんでいるせいで、誰も来ないのかもしれない。…僕はハッとしてベンチを見た。居なくなっている。ベンチの下、茂みの中、何処にも見当たらない。煙のように消えてしまっていた。なぜ声をかけなかったのだろう。僕はチェシャ猫によって煙に巻かれた処刑人のように、ただそこに立ち尽くしていた。30分ほど探して、僕は諦めて家に帰った。これで良かったのかもしれない。山中さん(猫)には黙っておこう。イソノさん(猫)でも、そうじゃないとしてもだ。しかし、僕は洗濯物を干しながら「次はいつあの公園へ行こうかな」と、ぼんやり考えていた。キッチンからは西陽が差し込み、ダイニングテーブルを優しく包んでいた。
猫を追いかけるのは容易ではない。そもそも体型が違うし、通る道筋の常識だって違う。ブロック塀をひょいひょいと渡り、他所の庭にササっと入っていく、かと思えば反対側から顔を出し裏通りをまた歩く。ちょっとしたドキュメント映画のようだ。僕は子供の頃に読んだ「不思議の国のアリス」を思い浮かべていた。イソノさん(と思われる猫)は、誰もいない公園のベンチで足を止めた。どうやら毛繕いを始めたようだ。もう随分家からは離れている。この時間の公園に誰もいないのは、とても不思議な感じがした。おそらくいつもは子供や、その保護者で賑わっているのだろう。誰かが忘れていったゴムボールや縄跳びが、昨日の雨で汚れてしまっていた。まだ地面がぬかるんでいるせいで、誰も来ないのかもしれない。…僕はハッとしてベンチを見た。居なくなっている。ベンチの下、茂みの中、何処にも見当たらない。煙のように消えてしまっていた。なぜ声をかけなかったのだろう。僕はチェシャ猫によって煙に巻かれた処刑人のように、ただそこに立ち尽くしていた。30分ほど探して、僕は諦めて家に帰った。これで良かったのかもしれない。山中さん(猫)には黙っておこう。イソノさん(猫)でも、そうじゃないとしてもだ。しかし、僕は洗濯物を干しながら「次はいつあの公園へ行こうかな」と、ぼんやり考えていた。キッチンからは西陽が差し込み、ダイニングテーブルを優しく包んでいた。