「実は、彼は少し前から行方がわからないんです。だから詳しく教えてくれませんか?」イソノさんは意外にも驚いていない様子で「そうだったのね」と言い「知ってたわ」と続けた。…知っていた?僕は正直同様を隠しきれなかった。いつから知っていたのか。先日会ったときはどうだったのか。原因は…。「正確に言うと、知っていたというより、そうじゃないかな、と思ったの。この前彼のうちに行ってみて、何も無くなっていたから。やっぱりこの前見たのは見間違いなのかもしれないわ…」イソノさんはもう笑ってはいなかった。僕は戸惑いの原因がわかった気がした。「何処で見たんですか?ずっと探しているんですが検討もつかなくて」イソノさんはひと呼吸おいてから「いつもの踏切の近くの屋根の上よ。今思えば少し模様が違う気もするわ。…参考にならずごめんなさいね」と言い「それからこれは噂なのだけど…」と続けたが「やっぱり何でもないわ」と言った。…何だろう。教えてくれませんかと何度か言ってみたが、イソノさんは首をふるだけで、「そろそろ行かなくちゃ。また会いましょうね」と言い、足早にその場から去って行ってしまった。僕はそれをただ見送り、そのまま公園のベンチで携帯灰皿とタバコを取り出し、それにマッチで火をつけたが、ふたくちほど吸って揉み消した。そのタバコはあのときと同じ味がした。僕の周りで何かが起こっているのか、それともただの考え過ぎなのか、今は正常な判断を下せそうもなかった。あの時から少しずつでも進んでいるのだろうか。それも分からない…。小さな石を投げる。波紋が静かに広がり、また音も無く消えてゆく。
「実は、彼は少し前から行方がわからないんです。だから詳しく教えてくれませんか?」イソノさんは意外にも驚いていない様子で「そうだったのね」と言い「知ってたわ」と続けた。…知っていた?僕は正直同様を隠しきれなかった。いつから知っていたのか。先日会ったときはどうだったのか。原因は…。「正確に言うと、知っていたというより、そうじゃないかな、と思ったの。この前彼のうちに行ってみて、何も無くなっていたから。やっぱりこの前見たのは見間違いなのかもしれないわ…」イソノさんはもう笑ってはいなかった。僕は戸惑いの原因がわかった気がした。「何処で見たんですか?ずっと探しているんですが検討もつかなくて」イソノさんはひと呼吸おいてから「いつもの踏切の近くの屋根の上よ。今思えば少し模様が違う気もするわ。…参考にならずごめんなさいね」と言い「それからこれは噂なのだけど…」と続けたが「やっぱり何でもないわ」と言った。…何だろう。教えてくれませんかと何度か言ってみたが、イソノさんは首をふるだけで、「そろそろ行かなくちゃ。また会いましょうね」と言い、足早にその場から去って行ってしまった。僕はそれをただ見送り、そのまま公園のベンチで携帯灰皿とタバコを取り出し、それにマッチで火をつけたが、ふたくちほど吸って揉み消した。そのタバコはあのときと同じ味がした。僕の周りで何かが起こっているのか、それともただの考え過ぎなのか、今は正常な判断を下せそうもなかった。あの時から少しずつでも進んでいるのだろうか。それも分からない…。小さな石を投げる。波紋が静かに広がり、また音も無く消えてゆく。