それはとても激しい疲労感だった。一刻も早く泥のように眠りにつきたくて、終業と同時に会社を出たが、電車に乗ったと同時に“友人宅へ忘れ物を取りに行く”という約束を思い出してしまった。うん、思い出さなかったことにしよう、という訳にもいかないので、僕は重く疲れた頭を抱え友人宅へ向かった。その友人の女子力は高い。「キャベツと豚肉があったから」という理由で、忘れ物を取りに来ただけだったのに、回鍋肉を出された。ご飯はもちろん五穀米。豆腐と生ハムのサラダ、味噌汁、きんぴらごぼう、さらには沢庵まであり、昼飯にしては豪勢だな、と思って、うどんでは味わえない幸せを文字通り噛み締めた。僕はすっかりそれをたいらげてお礼を言い、じゃあまたな、と言って、友人宅を後にした。帰りの電車に揺られながら僕は、『幸せとは暖かい仲間』というスヌーピーでの名台詞を思い出していた。彼とはもう10年以上の付き合いになる。色々あったが、まあ今が良ければな、としみじみ思っていたところで「やあ、邪魔するよ」と、彼(睡魔)が唐突にやってきた。僕は「いや、悪いけど、突然来られても困るんだ」と訴えたが、彼(睡魔)は「これも仕事でね」と言い、テキパキと準備を始め、ヌメ革のカバンから、老いた秋田犬のような、よれよれの風呂敷を取り出し、それをサッと広げて僕の身体を包み込み、容赦なく眠りへと連れ去って行った。…遠くの方で最寄り駅間近のアナウンスが聞こえた気がした。
それはとても激しい疲労感だった。一刻も早く泥のように眠りにつきたくて、終業と同時に会社を出たが、電車に乗ったと同時に“友人宅へ忘れ物を取りに行く”という約束を思い出してしまった。うん、思い出さなかったことにしよう、という訳にもいかないので、僕は重く疲れた頭を抱え友人宅へ向かった。その友人の女子力は高い。「キャベツと豚肉があったから」という理由で、忘れ物を取りに来ただけだったのに、回鍋肉を出された。ご飯はもちろん五穀米。豆腐と生ハムのサラダ、味噌汁、きんぴらごぼう、さらには沢庵まであり、昼飯にしては豪勢だな、と思って、うどんでは味わえない幸せを文字通り噛み締めた。僕はすっかりそれをたいらげてお礼を言い、じゃあまたな、と言って、友人宅を後にした。帰りの電車に揺られながら僕は、『幸せとは暖かい仲間』というスヌーピーでの名台詞を思い出していた。彼とはもう10年以上の付き合いになる。色々あったが、まあ今が良ければな、としみじみ思っていたところで「やあ、邪魔するよ」と、彼(睡魔)が唐突にやってきた。僕は「いや、悪いけど、突然来られても困るんだ」と訴えたが、彼(睡魔)は「これも仕事でね」と言い、テキパキと準備を始め、ヌメ革のカバンから、老いた秋田犬のような、よれよれの風呂敷を取り出し、それをサッと広げて僕の身体を包み込み、容赦なく眠りへと連れ去って行った。…遠くの方で最寄り駅間近のアナウンスが聞こえた気がした。