日本三大家具産地のひとつ・飛騨高山に拠点を置く老舗家具メーカー「柏木工株式会社」。和の空気感を纏いつつ、幅広いテイストになじむシンプルな家具が人気です。多くの人から愛される柏木工の歴史やものづくりの理念について、柏木工株式会社の関さんにお話を聞きました。
根源は「自然と共生すること」を大切にする、日本の美意識


現在RoomClip Shoppingにも出品いただいていますが、柏木工さんの家具は、なめらかな曲線が多く有機的で、なんとも言えず心ひかれるというか、見ていて気持ちのいいデザインだなぁと感じます。原点になるモチーフやイメージ、ものづくりのルールなどはあるのでしょうか?

柏木工含め、飛騨地方の主要な家具生産企業は「飛騨木工連合会」に所属しています。その飛騨木工連合会がものづくりのランドマークとしている「飛騨デザイン憲章」という掟がありまして、これは飛騨・高山の木製品づくりにかかわる全ての木匠たちが、自ら制定した理念です。身近な森との共生、人の手仕事の尊さ、永続性のある事業を行うことの大切さなどが綴られており、これらを共通理念として飛騨デザインの確立を目指し、「日本の美」と「飛騨のこころ」を、飛騨から世界へ発信し続けています。

「日本の美」ですか。たしかにどの製品にもどことなく「和」の雰囲気が感じられますね。

そうですね。飛騨デザイン憲章の第1条も「自然との共生」に始まるのですが、日本人らしい美意識というのは、寺社や庭園に見るように、自然に溶け込み、共生する精神性がもたらすものだと考えています。それが結果的に日本人の求める生活や住空間に合っていて、受け入れていただけるということなのかなと。
戦前から戦後、バブル、そして現在、未来へ。時代の流れを見通す慧眼



創業当時から「日本らしさ」を意識した家具づくりをされていたのでしょうか?

いえ、30年くらい前まではカントリースタイルやトラッドというような、アメリカンテイストの椅子を大量生産する工場だったんです。柏木工の創業は1943年に遡りますが、はじめは柄杓や桶など、木工でいわゆる生活雑貨を作る工場でした。そこから徐々に飛騨家具の特徴でもある「曲木加工」やろくろ技術を取り入れて、南京椅子(小さなスツール)やウィンザーチェアを大量生産しながら家具製造工場へと成長していきました。

大量生産の工場から、今の受注生産中心のスタイルに変化していった経緯は?

90年代初頭はバブル崩壊で日本の経済全体が厳しい時期だったということももちろんありますが、いつ売れるかもわからない商品を大量に在庫することのリスクはずっと存在していたわけです。そんな中で創業者がトヨタ生産方式※ に出会い、柏木工に導入することになりました。1995年に家具事業を受注生産中心の体制へ転換し、現在に至ります。
※「必要なものを、必要なときに必要な量だけ造る」「生産現場のムダ・ムラ・ムリを徹底的になくし、良いものだけを効率的に造る」という、トヨタ自動車の成長の柱となった考え方。

SDGs的な意味でもパイオニアですよね。

今から思えば、ですが、環境のことを考えるとそう言えるかもしれません。そもそも家具の購入機会というのは、ほとんどの人にとってそう多くないですからね。今日発注して「明日納品してください!」という人は少ないですし、当時からうちの製品を求めてくださる方のニーズには合っていなかった。

リードタイムについて世間の考え方もどんどん変わってきていますよね。「いつでも買えてすぐ届く」が現代では当たり前のようになってしまったけれど、速さだけが価値ではない、という方向に。これぞ、と思って選んだ家具なら、それが職人さんの手によって造られて、おうちに届くのを待つ時間も楽しみの一つと捉える方が増えているのではと思います。
普遍的なデザインだから長く使いたくなる。柏木工のベストセラー・ロングセラー

たくさんのシリーズを世に送り出されてきたと思いますが、ベストセラーと言える商品はありますか?

やはり「CIVIL(シビル)」シリーズですね。多くの方にご支持いただき、この20年くらいはトップランナーです。


CIVILチェアは、かつて柏木工さんの主力商品でもあったというウィンザーチェアっぽさというか、アメリカンテイストを少し感じますね。でも和の空気も纏っている。

そうです。奇抜さや華美さではなく、シンプルでありスタンダードな、普遍的な美を投影したデザインですね。そこにプラス和の要素があるのが、柏木工らしさだと思います。

幅広いテイストに馴染みそうですし、人気があるのも納得です。ほかに、ロングセラーの商品などはありますか?

ロングセラーだと「WILDERNESS(ウィルダネス)」シリーズですかね。CIVILシリーズが登場する以前は、これが柏木工の代表作でした。発売からは…もう35年くらいになるのかなぁ。昭和の末頃です。カントリースタイルの家具を中心に生産していた頃に登場したものですが、令和の今でも根強い人気があります。


確かに脚部の装飾などにカントリースタイルが感じられますね!デザインは発売当時から変わっていないのでしょうか?

そうですね、製品のデザイン自体は当初から変わっていないです。カタログ写真では最近の流行やニーズに合わせて、カントリースタイルというよりは少しこれも和の雰囲気に合わせてコーディネートしていますが。

まさに「普遍的な美」ですね。35年以上前に生まれたデザインが、今も変わらず愛されているのはすごいことだと思います…!
家具づくりの先にある「真の豊かさ」の創造へ


ちょっと大きな話になりますが、柏木工さんは今の日本の住環境について課題に感じておられることってありますか?また今後、変わっていく必要があるとしたらその方向性は。

柏木工の企業目標は「豊かな暮らしの創造」なのですが、真の豊かさ=広い家に住み、たくさんの物を持つことではないはずです。日本の表層的な住宅事情について語れば、おうちの面積が狭すぎるとか、画一化されていて選択肢が少ないなどの課題はあるとは思いますが、それらの多くは暮らす人の「心の豊かさ」によって解決しうるものであるとも考えています。

まさにRoomClipのユーザーさんたちも、それぞれのおうちの制約条件はありつつ、お気に入りのものを集めたり、工夫して「豊かな暮らし」を実現している方が多いのでとても共感できます。

自然豊かな日本に生まれた私たちは、四季折々の音や匂い、景色に心を動かされる感性を持っています。そうした感性に耳を傾ける心のゆとりこそが、真の豊かさではないかと思います。日々の暮らしにおいて、心にゆとりを持つために、自分が心地よいと思える住環境を整えることが大切ですよね。



こだわって選んだお気に入りの家具が一つあるだけで、毎日の気分がちょっと上向きになったり、心の余裕が生まれますよね。とはいえ、ライフステージの変化や引越しなどの機会があっても、間に合わせで手頃な家具を買ってしまいがちな私なのですが…(汗)

手頃なものは、それはそれで市場に必要だと思っていますよ。「気軽に買える」というのは確実に一つの価値ですし、「何が自分にとって心地よいか」はタイミングによっても変わりますよね。柏木工の家具は長年変わらない普遍的なデザインですから、「迎えたい」と思ったその時に購入していただくのが一番です。

心強いお言葉をありがとうございます(笑)。

ちなみにうちは家具だけじゃなく、室内ドアや壁面・玄関収納などの建具も手掛けているんですが、家具と建具の両方を揃えられる会社というのは、まだまだ国内では少ないんです。個人様の邸宅のほか、飲食施設、宿泊施設、オフィスなど、様々なニーズに対応しています。やはり建具から家具までトータルプロデュースさせていただくと、依頼主様のこだわりと、柏木工らしい普遍的な日本美、そしてそれを実現する熟練の職人の技術が合わさって、格別の空間になるなと毎回感じます。家を建てる時、リフォームする時には柏木工の存在を思い出していただければ。おひとりおひとりの「豊かな暮らし」を実現するための選択肢の一つに入れていただけたら、と思っています。

「柏木工スタイルの家」、憧れます。本日はありがとうございました!
ユーザーさんの投稿写真をご紹介。柏木工のある暮らし
クラウンチェアでつくる爽やかダイニング
セラドンカラーのクロスが爽やかなOtsuuu_houseさん宅のダイニングには柏木工の「クラウンチェア」が。特徴あるデザインがシンプルな空間の中で際立っていますね。木のぬくもりたっぷりの家具たちは、長く使うほどに愛着が増していきそうです。
思わず深呼吸したくなるリビング
ほっとする暖色系でまとめられたinuichiroさん宅のリビングの中心には「シビルリビングテーブル」が。緩やかな形状はお子さんのいるお宅でも安心して置けるのが嬉しい。遊び心のあるデザインで空間に心地よいリズムをプラスしてくれますよ。
ワークスペースにも難なくなじむ
yo.hさん宅のワークスペースで「REIチェア」を発見。モノトーンで統一された家具類に、枝ものやドライフラワー、生花を合わせて絶妙なバランスのインテリアに。澄んだ空気感の中で、リラックスしながら仕事に向き合えそうですね。
光のあふれるナチュラルなダイニング
大きな窓から光がさんさんと降り注ぐyoko1978さん宅のリビングダイニング。オーク材とウォルナット材を組み合わせたCIVILチェアが、ナチュラルな空間により一層深みをプラスしています。家族や友人たちと和やかなひとときを楽しめそう♪
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