今回はインテリア業界でも注目のブルックリンにお住まいのフリーライター仁平綾さんにブルックリンでの暮らしやおすすめのショップを紹介していただきます!
好きを重ねて足して。 ブルックリンのインテリア。photos & text by Aya Nihei
ニューヨークに住むことが決まった時、まっ先に思い浮かべたのは、憧れの我が家でした。ウェアハウスをリノベしたような、天井高のある白壁のロフトアパートメント。もちろん床は、朽ちたフローリング。あるいは、Sex and the City のキャリーが暮らしていたような、幅広な階段が玄関まで続く古いタウンハウス。ニューヨークの家は、どれもそういうものだ、と勝手に思い込んでいた私。いざ、ニューヨークで家探しをすると、そのワクワクは 見事に、それはもう瞬殺の勢いで打ち砕かれたのでした。
「階段付き」で探したタウンハウスを内見に出かけたら、素敵な外階段は横目でスルー。案内されたのは、階段下の小さなドア。その先は、半地下のじめっと暗い部屋。ありふれ ていると思っていたロフトなんて、探しても探しても見つからず、やっと空きを探し、勇 み出かけたら、すぐそばをものすごい轟音とともに電車が通りすぎるという過酷な住環境 …。
そうなんです、私が思い描いていたニューヨークの住まいは、他の人たちにとっても憧れの的。ちまっとした階段付きの薄汚れたタウンハウス、床が斜めに傾いた古い低層住宅、駅から15分以上も歩く、ブルックリン奥地のロフトなどなど、少し条件を落とせば、ないことはない。でも理想のタウンハウスやロフトは、潤沢な資金が用意できない限り、高嶺の花。仮に手頃なサイズとプライスのものが見つかっても、どちらも人気物件で、あ っという間に借り手がついてしまう。


さっさと妥協して、適当なアパートに住めばいいじゃん。なんて、夫は呆れ顔。でも、家で仕事をする時間が長い私にとって、また、食べ物はもちろん、暮らしの環境も、血となり骨となり肉となる、そう考える私にとって、「住まい」はどうしても安易に譲歩できないもの。「もう私が住む家なんて、ニューヨークにはないんだ…」と、いよいよ打ちひしがれていたとき、インターネットの掲示板で偶然見つけた家が、今の住まいでした。
ブルックリンのウィリアムズバーグと呼ばれる、開発著しいエリア。駅から徒歩5分。憧れの外階段付き、古いタウンハウス。といっても、キャリーみたいな豪奢なタウンハウスではありません。手入れもおろそかで、入り口の玄関ドアは、塗装に塗装の上塗りで、エンボス加工のようにもこもこに膨れ上がり不格好。玄関の踊り場は暗く、ホーンテッドマンションのよう。部屋の中も、ひどいものでした。赤茶色のタイル床、壁は汚れた白、ところどころピンクベージュという、センスのない配色。事務所みたいなパネル張りの天井、寝室やトイレのドアは、付き板みたいな安っぽいドア、そしてリビングには、なぜか洗面台がついている…。
ひどい、ひどすぎる。でも…。どうにかなるかも? なぜか、そんなポジティブな気持ちが芽生え、即契約。そこから我が家の劇的ビフォアアフターが始まったの でした。

ニューヨークでは、賃貸物件であろうとも壁の色を塗り替えたり、キッチンのタイルを 好みのものに変えたりというDIY が、広く行われています。家主の許可を得ればOK、得ていなくても家主が気に入ればOK、あるいは、好きにDIYしていいけれど、デポジット(保証金)は戻しませんなど、すべては家主次第。私のアパートメントの場合、「部屋がきれいになるならいい」という、ざっくりした答えだったので、そりゃもう、見違えるほどきれいになりなすよ、ということでDIYを決行。床は、自分で施工できるIKEAの白い床板に、壁にはアメリカのペイントブランド、Benjamin Moore のペイントを。近所の店で好みの色 &テクスチャーを調合してもらいました。リビングの洗面台は、勢いよく取り外し、代わりに棚板を取り付け本棚に、味気ない天井にはペイント下地用の白い壁紙を貼って…、と夫とふたり、1カ月ほどかけて、ようやくマイホーム完成。




それから1年半がたち、ブルックリンのフリーマーケットで手に入れたワゴンやヴィンテージのガラス瓶、ブルックリン発のブランド「CORAL&TUSK」のカーテン、ブルックリンに工房を構える「ashware studio」のセラミックボトルや、ブルックリン在住の友人のドローイング画、すぐ近所に暮らす友人から譲り受けたラスティックな梯子に、黒と白のタキシード猫ミチコ。と、ブルックリンなあれこれが次々我が家に加わり、住まいはどんどん進化中。そんな我が家や、ブルックリンのさまざまな部屋や空間を見るにつけ、ブルックリンのインテリアとは、断然「足し算」だなあと思います。
以前、東京でインテリア雑誌の編集をしているとき、さまざまな住宅を取材して、「引き算」のインテリアを学びました。しっかり物を収納して、すっきりシンプルに。よけいなものは飾らない、清潔感のある住まい。それも素敵な空間です。でも、ブルックリンはその逆。壁にパズルのように大小の絵をかけ、鮮やかなキリムを床に二重三重に敷きつめ、棚には花を、オブジェを、ヴィンテージのあれこれをストックしながら飾る。そうして、自分の「好き」をどんどん重ねていく。雑然としたカオスな部屋でも、その人のセンスや嗜好や、あるいは哲学や生き方なんかが、透けてみえるような。そんなブルックリン的インテリアもまた、魅力的なものだと、ここに暮らしながら、しみじみ感じるのでした。








仁平綾 Aya Nihei ニューヨーク・ブルックリン在住の編集ライター。2014 年に、ブルックリンの好きなモノ &スポットを紹介する本「BEST OF BROOKLYN」vol.01 を発行。2015 年春には vol.02 を 発行予定。