風はそよそよと、名もなき草木の隙間を縫うように吹き抜け、そのやわらかな律動は、時の流れがほんの少し緩やかになったかのような錯覚を与えてくれる。そんな初夏の昼下がり、緑の息づかいがどこか遠い記憶と重なりながら、目に映るものすべてが音もなく整い、互いに干渉せず、それでいて緩やかにつながり合っている——そんな風景の中に身を置く。
ガーデンの奥まった場所、小径のカーブを少し外れた先に、白い椅子と木製のテーブル。陽差しは濃くもなく淡くもなく、木漏れ日の粒が一定のリズムでテーブルを照らし、そこに置かれた冷えた麦茶のガラス越しに、光はほのかに屈折して、時間そのものが液体となって静かに満ちているように見える。隣には、朝摘みの木イチゴが、ほどよく曇ったガラスの器の中で、赤い実の色だけをそっと主張している。静かで控えめながら、その存在に迷いはないように映る。
音を立てぬよう椅子を引き、ゆっくりと腰を下ろす。背もたれに身を預け、ひと呼吸おいてから、ガラスのコップを手に取る。氷がかすかに鳴り、透明な液体の冷たさが、掌からすでに伝わってくる。麦茶の涼やかな苦みが舌の上を通り過ぎ、喉を滑り落ちていくその瞬間、光と風とが静かに身体の奥まで染み込んでいくような感覚に包まれる。何も始まっていないようでいて、すでに夏は始まっているのだと、どこかで知っていた気がする。
こうした光景に心がほどけていくのを感じるたび、同じ風景を愛する誰かの存在が、そっと心の内で響く。遠く離れていても、同じ季節のやさしい気配を大切に思う人がいること、それがなぜか少しだけ安心につながっている。
また来年のこの頃にも、似たような光と、風と、味わいと、そんな静かな情景の中に、変わらず身を置けますようにと、ひとしずくの願いを、麦茶の残りの氷に預けてみた。
風はそよそよと、名もなき草木の隙間を縫うように吹き抜け、そのやわらかな律動は、時の流れがほんの少し緩やかになったかのような錯覚を与えてくれる。そんな初夏の昼下がり、緑の息づかいがどこか遠い記憶と重なりながら、目に映るものすべてが音もなく整い、互いに干渉せず、それでいて緩やかにつながり合っている——そんな風景の中に身を置く。
ガーデンの奥まった場所、小径のカーブを少し外れた先に、白い椅子と木製のテーブル。陽差しは濃くもなく淡くもなく、木漏れ日の粒が一定のリズムでテーブルを照らし、そこに置かれた冷えた麦茶のガラス越しに、光はほのかに屈折して、時間そのものが液体となって静かに満ちているように見える。隣には、朝摘みの木イチゴが、ほどよく曇ったガラスの器の中で、赤い実の色だけをそっと主張している。静かで控えめながら、その存在に迷いはないように映る。
音を立てぬよう椅子を引き、ゆっくりと腰を下ろす。背もたれに身を預け、ひと呼吸おいてから、ガラスのコップを手に取る。氷がかすかに鳴り、透明な液体の冷たさが、掌からすでに伝わってくる。麦茶の涼やかな苦みが舌の上を通り過ぎ、喉を滑り落ちていくその瞬間、光と風とが静かに身体の奥まで染み込んでいくような感覚に包まれる。何も始まっていないようでいて、すでに夏は始まっているのだと、どこかで知っていた気がする。
こうした光景に心がほどけていくのを感じるたび、同じ風景を愛する誰かの存在が、そっと心の内で響く。遠く離れていても、同じ季節のやさしい気配を大切に思う人がいること、それがなぜか少しだけ安心につながっている。
また来年のこの頃にも、似たような光と、風と、味わいと、そんな静かな情景の中に、変わらず身を置けますようにと、ひとしずくの願いを、麦茶の残りの氷に預けてみた。